「WordPressの更新はちゃんとしているのに、サーバー会社から緊急のお知らせが来た」。2026年10月、こんな連絡を受け取った方も多いはずです。原因はWordPressよりも、その下で動くPHPという部品でした。そこで名前を聞くようになったのが、PHPを使わない新しいCMS「EmDash(エムダッシュ)」です。結論から言うと、EmDashはWordPressの考え方を受け継ぎながら、仕組みを今のクラウド向けに作り直したCMSです。記事中心の会社サイトやブログなら、乗り換え先の有力な候補になります。

EmDash(エムダッシュ)とは:Cloudflareが作った、PHPを使わないCMS

EmDashは、ネットの土台を提供するCloudflare社が2026年に公開し、「WordPressの精神的な後継」と位置づけるCMSです。CMSは「コンテンツ管理システム」の略で、HTMLを書かずに記事やページを更新できる仕組みのことです。押さえておきたい点は3つあります。

  • 作ったのはCloudflare社で、2026年9月に安定版の1.0が出た
  • オープンソースで、WordPressのコードを使わずに作られた
  • 画面づくりにAstroという道具を使い、PHPは使わない

Cloudflare社が2026年4月に発表し、9月に1.0を公開

EmDashは、Cloudflare社が2026年4月に発表しました。発表記事のタイトルには「WordPressの精神的な後継(spiritual successor)」という言葉があり、WordPressを強く意識して作られたことがわかります(Cloudflare公式ブログの発表記事)。

その後、2026年9月28日に、本番で使える安定版として1.0が公開されました。Cloudflare社は8月から自社の公式ブログをEmDashで動かしていると説明しています(EmDash 1.0の発表記事)。作った会社が自分で使っている点は、選ぶときの安心材料のひとつです。

オープンソースで、WordPressのコードは使っていない

EmDashはオープンソース(設計図にあたるソースコードが公開されていて、誰でも使えるソフト)です。ライセンスはMITという自由度の高いもので、WordPressのコードを使わずに作ったと、公式の発表記事で説明しています。

WordPressと同じ発想で使えるのに、中身はまったく別のソフトという点が、EmDashを理解する近道です。カテゴリやタグ、メニュー、下書きと公開といったWordPressでおなじみの考え方は、EmDashにもそろっています。一方で、WordPressのテーマ(見た目のひな形)やプラグイン(後から足す機能)は動きません。この点はEmDash公式ドキュメントの「Why EmDash」にも明記されています。

考え方は同じ、部品は別物。

持ち家とマンションにたとえると

レンタルサーバーで自分で管理するWordPressは持ち家、Cloudflareで動かすEmDashは建物と設備を管理会社が見てくれるマンションに近いと考えるとわかりやすくなります。持ち家は自由に建て増しできます。屋根や給湯器の修理も自分の責任です。マンションは建物や設備の修理を管理会社が引き受けるので、住む人は部屋の中のことに集中できます。マンションでも、部屋の家電を新しくするのは住む人です。EmDashでいえば、EmDash本体やAstroの更新がこれにあたり、サイト側の仕事として残ります。

WordPressを持ち家、EmDashをマンションにたとえた仕組みの違いの図。サーバーやPHPの更新を誰が担うかを比べている
左のWordPress(自分で管理するサーバーの場合)は建物の修理も自分の担当。右のEmDash(Cloudflareで動かす場合)は、動かす仕組みの手入れをCloudflare側が持つ。EmDash本体や部品の更新はサイト側に残る

ただし、このたとえが当てはまるのは、EmDashをCloudflareのサービスの上で動かす場合です。自分で用意したサーバーで動かせば、そのサーバーの管理は自分の仕事になります。WordPressでも、PHPの更新まで事業者が引き受けるマネージド型のサーバーなら、建物の修理は任せられます。EmDashがAstroの中でどう動くかといった技術寄りの話は、EmDashとは? Astroネイティブの新しいCMSをやさしく解説でまとめています。

どこで動かすかで建物の修理を誰が持つかが変わるので、EmDashを選ぶかどうかとは別に、Cloudflareの上か自分のサーバーかを最初に決めておく必要があります。

「PHPを使わない」が話題になったのは、2026年10月のPHP脆弱性がきっかけ

2026年10月にPHP本体の深刻な脆弱性(セキュリティ上の穴)が見つかり、WordPressの更新に加えて、PHPの更新も必要だと広く知られたからです。ポイントは2つです。

  • 穴があったのはWordPressではなく、その下で動くPHP本体だった
  • EmDashはPHPを使わないので、EmDashのサイト自体は今回の穴の対象にならない

2026年10月、PHP本体にCriticalの脆弱性が2件見つかった

PHPの開発チームは2026年10月21日、深刻度Critical(最も高い区分)の脆弱性2件を直した新しい版を公開しました。ログインしていない第三者が、外からサーバー上でプログラムを動かせるおそれがある内容です(php.netのセキュリティ勧告)。

PHPは、WordPressを動かしているプログラミング言語です。たとえるなら、WordPressというレシピ本を読んで料理を作る厨房の料理人にあたります。今回は料理人そのものの欠陥が問題だったので、レシピ本(WordPress本体やプラグイン)をいくら新しくしても直りません。直すのはサーバー側のPHPです。何が起きたか、今日やることは何かはPHPに緊急の脆弱性2件(2026年10月)WordPressサイトで今日やることで詳しく書いています。

EmDashのサイトは今回の対象外

EmDashはPHPを使わず、TypeScript(JavaScriptを書きやすくした言語)で作られています。だから今回のPHPの穴は、EmDashのサイトには関係しません。EmDashを使っているサイトへの影響はEmDashのサイトへの影響を確かめた記事にまとめています。

WordPressとEmDashの違い

一番大きな違いは、サイトを動かす土台の手入れを誰が持つかです。日々の更新作業や管理画面の使い心地にも差があるので、表で並べます。

比べる点

WordPress

EmDash

動かす言語

PHP

TypeScript(PHPは使わない)

更新の手間

本体・テーマ・プラグインに加え、PHPやサーバーの更新も要る

EmDash本体と部品の更新が中心。Cloudflareで動かせばPHPやOSの更新はない

安全の仕組み

プラグインはサイトと同じ権限で動く(その分、できることが多い)

プラグインを隔離して動かし、許可した範囲だけ触らせる設定ができる

表示の速さ

テーマやプラグイン次第。キャッシュなどの工夫で速くする

Astroで必要な分だけのHTMLを作るので軽くしやすい。作り方次第なのは同じ

管理画面

長年使われてきた画面で、機能も解説も多い

入力欄をサイトに合わせて作る、すっきりした画面。WordPressと見た目は違う

プラグイン

数がとても多く、たいていの機能が見つかる

まだ少ない。足りない機能はサイト側で作る

情報と頼める人

日本語の情報も制作会社も多い

日本語の情報も、対応できる制作者もまだ少ない

サーバー代と頼める先

安いレンタルサーバーで動き、頼める制作会社の選択肢も多い

Cloudflareなどで動かす。頼める先はまだ限られる

表の中で誤解されやすいのが、プラグインの安全性で、EmDashのプラグインは「サンドボックス」と呼ばれる隔離された場所で動かせます。サンドボックスは、プラグインごとに用意する仕切られた部屋のようなものです。プラグインは自分に必要な権限を申告します。管理者が認めた範囲のデータや機能にしか手が届きません。ネイティブとして入れたプラグインは隔離されません。サイトと同じ場所で動きます。ただし隔離して動かすには専用の設定が必要で、Cloudflareで動かす場合は有料プランが条件です(EmDash公式ドキュメント:プラグインのサンドボックス)。

隔離は、設定と料金プランが条件。

EmDashの管理画面で、WordPressの代わりとして使うブログ記事の編集画面。タイトル、概要、本文の入力欄が並んでいる
このサイトのEmDash管理画面(開発用の環境)。左がメニュー、中央にタイトル・概要・本文の入力欄が並ぶ(2026年10月22日撮影)

管理画面は、WordPressの管理画面とは見た目が違いますが、タイトルを入れて本文を書き、画像を入れて公開するという流れは同じです。覚え直すのは、画面の場所だけ。表示の速さや安全性がなぜ保ちやすいのかは、速い・安全・更新できるサイトを EmDash × Astro で作る理由で掘り下げています。

乗り換えで手間と費用がかかるところ

EmDash自体にライセンス料はかかりません。費用がかかるのは作り直す作業と動かす場所と公開後の保守です。考え方のポイントは3つです。

  • 記事や画像は道具で取り込めるので、手間の中心は見た目と機能の作り直し
  • サーバー代の代わりに、クラウドの利用料がかかる
  • 公開後に部品の更新を誰が担うかを、最初に決めておく

記事は取り込めて、見た目と機能は作り直す

EmDashの管理画面には、WordPressから記事や固定ページ、画像、カテゴリなどを取り込む機能があります(EmDash公式ドキュメント:WordPressからの移行)。一方で、テーマとプラグインの機能は移らないので、Astroで組み直します。持ち越せるのは、中身だけ。引っ越しの流れや準備、検索順位への影響ははじめての方向けのWordPress引っ越しの記事にまとめました。制作会社の担当者向けの詳しい手順はWordPressからEmDashへの移行手順にあります。

EmDash管理画面の「WordPressからインポート」画面。WordPressの書き出しファイルをアップロードして移行する入口
EmDashの「WordPressからインポート」画面。WordPressの書き出しファイル(.xml)を置くか、専用プラグインでつなぐ(開発用の環境で撮影。取り込みは実行していない)

費用の内訳は6つに分けて考える

見積もりを見比べるときは、金額の大小よりどの項目が入っているかを確かめてください。費用がかかる場所は、次の6つに分けると整理できます。

WordPressからEmDashへ乗り換えるときに費用がかかる6つの場所。見た目の作り直し、記事の移し替え、機能の置き換え、URLと計測、動かす場所、公開後の保守
見積もりを見比べるときは、この6項目がそれぞれ入っているかを確かめる

このうち見落とされやすいのが、4のURLと計測、6の公開後の保守です。古いURLから新しいURLへの転送を忘れると、検索から来ていた人が迷子になります。保守は「PHPの更新がなくなる」だけです。EmDash本体や部品の更新は続きます。版が上がるときには、データベースの移行を手で流す作業が要ることもあります。乗り換えは保守がゼロになる話ではなく、保守の中身が軽く変わる話です。

記事のURLの形を変えるなら記事の本数ぶんの転送が要るので、記事が多いサイトほど、4の項目が見積もりに入っているか、誰がその対応表を作るかを先に確かめたほうがよいでしょう。

向いているサイトと、無理に移らなくてよいサイト

EmDashが向いているのは、お知らせやブログ、実績紹介が中心の会社サイトです。逆に、WordPressのプラグインに大きく頼っているサイトは、急いで移る必要はありません。サイトの種類ごとに目安を並べます。

分かれ目は、プラグインへの依存度。

サイトの種類

EmDashへの乗り換え

理由

お知らせ・ブログ・実績が中心の会社サイト

向いている

記事は取り込めて、使うプラグインも少ないことが多い

更新が止まりがちな小さなサイト

向いている

サーバーやPHPの更新はなくなる。EmDash本体の更新は残るので、保守を頼める先を決めておく

問い合わせフォームがあるサイト

検討できる

フォームは作り直しになるが、よくある作業

会員機能・予約・決済があるサイト

個別に判断

プラグインに頼る部分が大きく、作り直しの量が増える

WooCommerceなどで商品を売るECサイト

急がなくてよい

EmDashには同じ規模のEC機能がまだない

更新や保守の体制が回っているサイト

急がなくてよい

PHPの更新を確実にやれているなら、WordPressのままで問題ない

判断に迷ったら、「今のサイトで使っているプラグインを全部書き出し、それぞれ何のために入れたか」を一覧にしてみてください。作り直しが必要な機能の数が、そのまま乗り換えの手間の目安になります。WordPressを続けるか離れるかの考え方はWordPressを続けるか移るかの判断軸でも触れています。

このサイト自体がEmDashで動いている実例

いまご覧のtsudzuri.comは、EmDashとAstroで作り、Cloudflareの上で動かしているサイトです。記事は管理画面とAPI(プログラムから操作する窓口)で入れています。この記事もその流れで公開しています。

EmDashで動いているtsudzuri.comのブログ記事ページ。WordPressの代わりにEmDashとAstroで作った実例
tsudzuri.comの本番のブログ記事ページ。記事の文章も画像も、EmDashの管理画面から入れている(2026年10月22日撮影)

運用してみて一番違うと感じているのは、サーバーのOSやPHPの更新という作業がないことです。今回のPHPの脆弱性のときも、自分のサイトについて急いでやることはありませんでした。サイトの応答を確かめると、送り元はcloudflareと表示され、PHPが使われているときに出ることのある見出し(X-Powered-By)も出ていません。PHPの痕跡は、応答にもなし。

一方で、やることがゼロになったわけではありません。EmDashやAstroなどの部品は定期的に新しい版が出るので、更新して動作を確かめ、公開し直す作業は自分で続けています。プラグインは入力欄を増やすものを1つ使っているだけで、隔離して動かす設定はまだ使っていません。

減るのは、手入れの種類。

よくある質問

EmDashは無料で使えますか?

EmDashのソフト自体は、MITライセンスのオープンソースなのでライセンス料はかかりません。サイトを動かす場所の利用料と、作り直しや保守の作業費は別にかかります。見積もりでは、上の6つの項目がどう入っているかを確かめてください。

WordPressのプラグインはそのまま使えますか?

使えません。EmDashはPHPで書かれたWordPressのプラグインを動かせないためです。お問い合わせフォームや検索対策など、プラグインで足していた機能は、EmDashのプラグインかサイト側の実装で置き換えます。

社内の担当者でも記事を更新できますか?

できます。記事の追加や画像の差し替え、下書きと公開の切り替えは管理画面から行えるものです。画面に並ぶ入力欄は、制作する側がサイトに合わせて設計するのが普通で、最初に誰が何を更新するかを伝えておくと、使いやすい画面になるでしょう。

まとめ

綴(Tsudzuri)では、WordPressからEmDashへの引っ越しと、EmDash以外も含めたPHPに頼らないCMSへの移行をお手伝いしています。今のサイトが乗り換えに向くかどうかは、使っているプラグインと更新の体制を見ればかなりの部分が判断できます。サービスの内容はWordPressからの移行支援にまとめました。まずは現状を一緒に整理したいので、お問い合わせからサイトのURLを添えてご相談ください。

本記事は2026年10月時点の情報です。